2019
さようならデラカブ
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新宿にあったストリップの劇場DX歌舞伎町劇場が6月30日に閉館します。3月と9月に行われていたSMライブショーも今回で終了です。10日間はお祭り騒ぎで、常連さんは体力の限界だったのでは。
私が、SMライブショーに初めて行ったのは、9年半前の3月でした。アルカディア東京の鉄心さんと智弓ちゃんの初舞台の日です。行くのを直前まで迷っていました。時々舞台にあがっているブログを読みに来てくれる友達に「女性も来ている?」と、聞いたのを覚えています。「受け手さんは、無料で入れるから、結構他の人の舞台を参考にするために来ているよ」そうなんだ。じゃあ、行ってみようかなぁ。
どきどきしながら、狭い階段を降りて、フライヤーを差し出して、自動券売機でチケットを買います。緊張して入った暗い劇場の中には、盆を中心に椅子が並んでいました。もう、ほとんどの席が塞がっていたので、花道の最前列に座りました。3月なので、まだ、コートを着ていて、脱ぎそこなって座ったので、ぶわっと汗がふきだしてきて、また、立ち上がってゴソゴソゴソゴソ。なにしろ、自分の人生でストリップ劇場に行くなんて、一度も想像したことありませんでした。周囲の男性は「なぜ、ここに女がいるんだ?」と、言わんばかりのいたたまれない状態をかもしだしていました。花道の真向かいに座っている男性は、さっと、視線をそらします。私も、演技が終わって10分間の休憩の間、結構明るくなるもんだからとにかく誰とも視線を合わせないように一生懸命携帯の画面を覗いていました。(その頃は、まだ、規則が緩かったんですよね)
ようするに、お金を払ってない受け手さんたちは、けっして椅子には座らないので、そこへ座っちゃった私は悪目立ちをしてしまったわけです。
鉄心さんは、縛っている時はあまり盆を回さなかったので、私はずっと鉄心さんの背中と、せっせと縛っている手元を見ていたのを覚えています。一部と二部は違うものをやるなんて知らなかったし、家族に出かける事を言ってなくてメールでの事後報告だったので、一部が終わるなり劇場を飛び出して、走って帰りました。
私が通った9年半。緊縛人口は増え続けていたと思います。講習会や縄会の場所も、有名な縛り手さんや、ショーを見せるイベントも。お客さんもどんどん増えて、一時は中に入りきれなくって、中のドアを開けたままショーをおこなったこともありました。最残列に座る常連さんは朝から並んでいるんですが、椅子に座るためにはやっぱり2時間3時間は覚悟して並ばなくてはなりません。私は、ホームセンターで小さな椅子を買ってそれを持っていくようになりました。劇場の前に並ぶためです。雨が降っている時もありました。前後の人と話が弾んだ日もありました。毎日のように通っている人や、後ろで公式写真を撮影している人とおしゃべりをするのが楽しみのひとつになりました。
舞台は、魔法のようなものです。私は、どこへ行くのもできるだけ最前列に座りたがる人ですが、デラカブはそう簡単に最前列には座れません。それでも、できるだけ前に。人の頭を隔てて観るのと、舞台と自分の間に障害物がなにもないのでは、見える世界が違います。男性と女性でも、違うところを見ているはずです。私は、いつも、どこかしら哀しくて、辛くて、だけど、やっぱり酷い事が行われるほど、没入して、泣いてしまったりしていました。
手術とかしたせいでしばらく、夜遊びを自粛していましたが、ようやく戻ってくると、デラカブ閉館の噂が流れていました。
人は少しずつ減り、ショーを重ねるうちに少しずつ前の舞台を越えようとするので、猥雑な現実を見せるものも出てきました。SMがけっして綺麗なものじゃないことはみんな分かっているけれど、一部と二部を続けてみると、胸がいっぱいになってしまって、しばらくは、行かなくてもいいやとか思ったり、それでもやっぱり行きたかったり、9年半も通ったのに、まだ、濡れ事が苦手だったらしいです。
この十年、なぜ縄をするのかの意味は変わりました。激変したと言っていいと思います。もちろん、昔ながらの縛りを少しずつ少しずつ前進させていっている方も、多くいらっしゃいます。やがてSMバーに行くと隣に座ってたり、カウンターの中にいたりしていたS男性は、海外に講師として招かれるようになり、あちこちの国で「SIBARI」や「KINBAKU」のイベントが行われるようになりました。その結果、私達は外国の方のショーをYoutubeで観ることができます。世界に縄の文化が広がるのは嬉しいことです。
でも、それは、私があの暗闇の中で追い求めた縄とは別のものです。あの暗い階段を降りていく時の罪悪感も、壊れかけた椅子にバスタオルを敷いて座ってもお尻が痛かった思い出も、どこに座れば一番好きなあの人がよく見えるでしょうかと悩んだことも。ふらふらと楽屋に戻ってくるM女さんと抱き合って泣いた思い出も、もう、昔。
恥ずかしくも、哀しくも、辛くも、痛くも、無残で、猥雑な美しい縄を、必ず観ることができる祭りの十日感は終わりました。
さようなら、デラカブ
そして
ほんとうにありがとう
