2015
お仕置き(凛編)・4
第四章『初めての義母からのお仕置き・上』
他の誰かと父を共有する。私の人生で、初めての出来事だった。母がいた時は、こんな気持になったことはない。父は父であり、母は母であり、ふたりとも私のものだった。私を愛してくれ、私の事を心底考えてくれている。何の心配もなく、私の世界は完全だった。
母が亡くなってから、その世界の欠けた部分を埋めてくれたのが父だった。忙しい仕事の合間をぬい、できるだけ一緒にいてくれた。話を聞き、食事を共にし、一緒に出かけることもあった。もちろん、他の家庭に比べれば、父は忙しい人だったと思う。出張も多く、私の面倒をみてくれる仕事も兼ねている家政婦さんと ふたりで、留守番する事も多かった。
でも、父の生活は、仕事と私という娘の2つの事柄で占められていた。・・・そうではなかったのかもしれないが、私はそう信じていた。家にいない時は、お仕事をしていて、それが終われば、私の所に戻ってくる。
今は、そうではなかった。父が帰ってくるのは、再婚した美智子さんのところなのだ。
家の中の趣がどんどん変わってしまったことも、そう感じてしまう原因の一つだった。父は美智子さんに、家の内装を自由に変えることを許した。父と母と私。 思い出がいっぱい詰まっていたその家だったのに。カーテンやじゅうたんだけでなく、古い時代のアンティークな家具も、どんどん変えられてしまい。新しくモダンな装いになっていった。
自分の家なのに、いつの間にか、自分の家と感じられない。自分の父なのに、美智子さんの新婚の夫と考えなければならない。そう、常に考えていないと、どう振る舞っていいのか分からなくなってしまうのが本音だった。父が家に帰った時に、今までだったら、真っ先に玄関に 走って行って飛びついていたのに、そこに立っている父の新しい奥さんの前では、ただにこやかに、「おかえりなさい」と、言うのが精一杯。父の腕を取り、話しながら階段を登ってい行く二人の後ろから、微笑んで後をついていくのが精一杯だった。
忙しい仕事をやりくりして、父が家に戻ってきているのは分かっている。家族の一員として、できる事をしなくちゃ。そう、考えれば考えるほどに、素直に振る舞えない自分がいた。やりくりして父が捻出した時間は、一生の仕事を辞めてまで、家で待っている、新妻のために使われるのが、当然のように思える。もう、私も高校生なのだから、訳の分からない子供のようなわがままを言っては、ならないのだ。
そうして、父を独占できる時間は失われてしまった。再婚したことで、私が寂しく思わないでいられるように、二人して気を使ってくれているのだろうが、それは、いつも二人での行動に、私を迎え入れてくれるという形だった。
私は、まだ、美智子さんを母として受け入れられないのかもしれない。昨年の暮に籍を入れた事を聞かせられた時に、父からも促されたし、彼女にも「これからは、母と呼んで欲しい」と言われたから、形だけは「お母様」と、呼び習わしているのだけれど、気持ちはついていっていない。父を盗られたと感じる気持ちも 消すことができなかった。
以前は、ティールームでくつろいだり、父といろんなゲームをして過ごしたりしていた時間を、私は自室に篭りがちになっ た。ちょっとした目配せや、夫婦だけの親しみのこもった接触を見る度に、胸の奥が絞り込まれるような痛みを感じてしまう。それから逃れるためには、二人と一緒に居るのを避けるしか無かったのだ。
部屋で、することもなく、勉強にも集中できない私。私は、何も考えない時間を作り出すがために パソコンに逃避した。今日のニュースを読み、そこから2チャンのまとめサイトへ行く・・・。誰かが誰かの言う事をおもしろおかしくこき下ろし、それが延々と続く。秀逸なツッコミが並ぶ時もあるが、ほとんどが同じ主旨の羅列。そして案外と保守的な意見だった。
あちこちとネットサーフィンをしてか ら、行くところがなくなって、しかたなしのように、私はそのサイトに辿り着く。それは、女性の書いたブログで、スパンキングの情報を、海外から幅広く拾っ ている。リンクとレビューが、豊富に書かれていて、それを利用すると、苦労することなくスパンキングの動画を見たり、物語を読むことができる。
そう、スパンキング。今では、私は、その行為が性癖の一つであることも、それをディシプリンスパンキングと呼ぶことも、セックスの前戯として使う人達とは一線を画しているということも、なんとなく理解するようになっていた。
父と私の間に性的な物があったとは思っていないけど、安心や信頼や愛情はあった。お尻を出される時の甘酸っぱいような恥ずかしさと、こんなにも父親に近い場所に居るという満足感。そして痛いけれど、父親の愛情が心に染みてくるような。お小言さえも、愛情の証のように思っていた。
ネットの中で見る画像は、圧倒的に教師と生徒が多いような気がする。制服を着ている、少女のように見える女性たち。今は年齢制限がきびしくなっているので、彼女ら は、21歳を超えているはずだった。そして、多分、ネットでこの画像を見つめているのは、私のように、叩かれる側の人間ではなく。お仕置きをする側の男性たちなのだろう。
スカートをめくられ、下着を降ろされて、むき出しのお尻を叩かれる。校長室で・・・時には、教室のみんなが観ている前で。考えただけで恥ずかしくて気が狂いそうになる。私にはとても耐えられそうにない。きっと、スパンキングが好きなわけじゃない。私が好きなのはお父様。大切な お父様だからこそ、素直にお仕置きを受けることが出来たのだ。
ぼんやりと考え事をしていたせいか、私はドアが開いて、美智子さんが声をかけてくるまで、ノックの音に気が付かなかった。慌ててパソコンをシャットダウンしようとする私を、部屋に入ってきた美智子さんは、不審げに見つめると、つかつかと部屋に入ってきた。
「凛?あなた、夕食後のお茶もしないで、さっさと部屋に引き上げてしまったけど、なにか用事があったの?お父様がお留守だからって、気ままにしたいようにすると、お父様に心配かける事になってよ。」
そう言いながら、俯いて彼女の小言をやり過ごそうとしていた私の前のキーボードを素早く操作した。あっと、気がついて静止する間もなく、いくつかのキーの操作で現れたのは、さっきまで見ていたスパンキングのサイト・・・赤くなり、泣き叫ぶまで、お尻を叩かれている少女の姿だった。
それから、ひとつ、2つの操作をすると、私が今まで閲覧していた沢山のサイトが画面に並んだ。「知られてしまった。」「どうしよう・・・見つかってしまった。」私は、その場で地面に穴を掘って、埋まってしまいたいいたたまれなさにどうしていいのか分からなかった。
「ふうん・・・そうなの・・・・。」
彼女がちろり・・・と、舌を出して、赤く塗った口紅をぺろりと舐めた。食事の後に塗り直したのだろう。くっきりと描かれた赤い唇は、私と彼女の立場の差を 歴然と表していた。化粧をする大人と、素肌のままの子供。黙って上から見つめられて、私は火のついたように赤くなって、固まっているしかなかった。
「凛さん、私、あなたのことは、お父様からくれぐれもよろしくと頼まれているの。」
「お父様から伺ったわ。あなた、悪いことをした時は、未だにお尻を叩かれているそうね。もう、高校生にもなっているのに、父親にお尻を叩かれるのって恥ずかしくないのかしら。」
美智子さんは、キラリと目を光らせると、私を斜めに見た。面白そうに、嬉しそうに、まるで、新しいおもちゃを見つけた時の子供のように。私は、悪い予感に 身震いした。彼女が考えていることが手に取るように分かる。椅子に座ったまま、キャスターで後ずさりをしながら、なんとか言い訳をしようとしたが、口を開けても言葉を述べることができなかった。言い訳のしようがない・画面に映しだされた動かぬ証拠。
「それでも、足りなくてサイトでお尻叩きの画像を観ているなんて、あなた、そんなのお尻を叩かれたいの?」
「そんなことありません!」
隠していたものを全部、白日の元に晒されてしまったことにうろたえながらも、私は父との秘密を必死に守りぬこうと決心していたのに・・・。それなのに、父は、もう、美智子さんにお仕置きの事を打ち明けていた。私に、相談もしないで、私の気持ちも考えないで・・・。私は、悲しくて、その場にわっと泣き伏したかった。でも、それでも、彼女の前で泣くのは嫌だった。私にもプライドがある。そのプライドが、彼女に弱みを見せて泣くくらいなら、じっと我慢して叱られたほうがましだと言っていた。
「じゃあ、お尻を叩くのは何のためなのかしら?」
「わ、悪いことをした時の罰です・・・。」
「そうね。そのとおりよ。こういう画像をパソコンで見たり、それを見ながら自慰をしたりするのは、悪いことよ。あなたは本当に悪い子ね。お父様から厳しくしつけてくれるように言われているの。これからは、あなたの振る舞いは、私の責任でもあるのですもの。良くて?」
私は、あまりの事に呆然とした。父は、私を、この人にあげてしまったの?自由にしていいって言って?もちろん、後で冷静になった時に落ち着いて考えれば、父がそういうつもりではなかったことは推測できた。でも、結果は、どちらにしても同じ事。私の教育は、美智子さんにまかせられてしまったのである。
それは、つまり彼女には、私のお尻を叩く権利があるということだった。
ベッドの端に座った彼女は、自分の手の中に落ち込んできた獲物に狂喜していることを隠そうともしていなかった。
「さあ、いらっしゃい。お膝に乗るの。このサイトが18歳未満は閲覧禁止で、あなたには、それを見る資格が無いことは分かっているでしょう?破廉恥なポルノサイトを見たために、あなたは、そのサイトに出てくる方法でお仕置きされるのよ。でも、自分の手で叩くと私のほうが痛くなってしまうわね。なにかいい道具はないかしら。」
きょろきょろと視線を巡らすと、彼女は鏡台の上に置いてあった。細工が美しい銀のブラシをみつけた。それは、本当のお 母様が私の髪をくしけずる時に使うために10歳の時の誕生日プレゼントに贈ってくれたものだった。私は、彼女がそれに目をつけたのを悟り、飛びつくように ブラシを鏡台の上から取り上げるとさっとスカートの後ろに隠した。
「りーん。」
ドスを利かせた、低くて怖い声を出すこの女性は・・・父の前で見せている、薔薇のような華やかな美しさと気品と優しさとは、全く違う顔を持っている。私は、恐怖に震え、ただただ、立ち尽くすしか出来なかった。
「凛、それを持ってこっちにいらっしゃい。」
美智子さんの取り澄ました声に、私は、必死に左右に首をふった。そうした私の我を忘れてしまった反応が、彼女を喜ばせていることに気が付かなかった。彼女は、立ち上がり、パソコンの前に行くとキーに触れた。ホームページの最初の扉のところへ画像が戻る。そして、彼女はその画面に書かれて居る文字を、一言一 言区切って、口に出した。
「You must be at least 18 to enter! 凛、あなたも、ちゃんと声に出して、読んでご覧なさい。」
私は、何度かつばを飲み込んだ。彼女は、どうあっても、このことをなあなあですますつもりはないのだ。私は、「どうか普通の声がでますように」と、心で祈りながら、それを復唱した。You must be at least 18 to enter!たとえ、英語がよく分からなくても、なにを言っているのか歴然としている。海外のネットのスパンキングサイトのトップページには、必ず書かれ ている。「Adults-only」「18歳未満禁止」「18歳もしくは21歳以上の成人の同意のもとに」
有罪判決文と同じだった。

5へ続く
M男性のためのリンク
