2011
桜吹雪

蝋燭をしました。
低温蝋燭はくつくつと、とろ火でスープを似ているよう。
小さな点火がぽっぽっぽっと、続きます。同じ場所に続けて落ちてくる蝋はだんだんと遠ざかる灯り。新しい場所に落ちる蝋は、新たに灯る熱い火。近づいて遠ざかる、そしてまた近づく。
少しずつ少しずつ、煮詰まっていく、身体の中のスープ。
いい湯加減になったところで、重なった蝋を短い皮の鞭で弾き飛ばします。すでに温ったまっていたスープが「ぱん」と内側から弾け、ぶくぶくと沸騰しはじめます。鞭は、いつも、最初が痛い。痛みと一緒に、温ったまっていた身体はあっと云う間に、浮きあがり、それから、急激に、落下して行きます。
鞭だけの時は、深く、深く、掘り下げて床が沈んでいくように感じるのに、蝋燭の前菜の後には、宙に弾けるように炎が、散りました。花火のように・・・。
蝋燭が弾かれて、パラパラと音を立てて舞いあがり、この痛みの積み重ねの後に、瞬間的にぽんと走り抜ける快感が来るはず・・・。そう思って、待ちかまえていたのに・・・。
次にやって来たのは乱暴に身体の蝋をこすり落とす掌でした。その動きは、決して優しい訳ではなかったのに、丸い球が転がるように柔らかな喜びがくるくると移動して行きます。
短く固い鞭の皮でこそぎ落とす、それから掌で。無機質な刺激と、温かみのある掌の柔らかさ温かさ。交互に繰り返されるそれが、弾けて宙に浮いてる紙風船のようにたよりない感覚をぱんぱんと、打ち上げて行くよう・・・。
くらくらする。
なんて表現するのが難しい感覚。指の一本一本の丸みが、くっきりと分かる。掌が眼の裏に、浮かび上がる。そのイメージが、揺れ戻し、遠ざかり、追い上げて行く喜び。そして、寄せて返す、波の上に、また白い泡のように弾ける、鞭の痛み。
これがすべて、蝋燭が身体の上から散り散りになって舞い上がる時に、起きたのです。鞭で打ち、こすり、掌でこする。桜の花びらが舞い散るように蝋涙が跳ねる音のひとつひとつが、自分がこれほどに誰かに囚われている事の証のように思えました。
なにもかも終わった後は、身体がパンパンに膨らんで、何も聞こえず、何も考えられず、ちょっと揺すっただけで、どうにかなってしまうのではないかしらと思うほどに、自分の身体中が皮膚の感覚だけになってしまったようでした。自分の力で動く事ができなくて、爪先を縮かめて、ただ丸くなっているだけ。
いつも思うのです。どうして、私は、こんなに、地上に戻ってくるのに時間がかかるのだろうと・・・。
M男性のためのリンク
