2010
唐突な段落
店を出て一番最初の角の小さな小道で、あの人はいきなり私を小道へ引き込んだ。考える暇もなく、抵抗する隙もなく、心構えも無く、壁に押し付けられる。
暗い小道、通り過ぎる車のヘッドライトと、向かい側の街灯の白い明り。
頬に当たるコンクリートの壁、ついた手にざらつく、壁の凹凸。身動きが取れない。意外な状況に走り出した心臓の鼓動と、重なるぶあつい身体の重みが、真っ白になった頭の中をいっぱいにする。
スカートをめくりあげてくる迷いのない手。下着もろともにストッキングを引き下ろす。ひんやりと外気に触れる事で分かる。自分の身体の熱さと湿ったほてり。
「いやか?」
口を開けて息を吸い込む。首を降ろうとして、どっちか分からない事に気がついた。
外でやったことなど一度もない。誰かに見られたらどうしよう、とも思う。だが、恥ずかしさはさほどなく、どこか、開き直りのような、それでいて、膝の力が抜けてそこから溶けて流れ出して行きそうな不思議な感覚がせめぎあっていた。
掌が足の間を撫で上げる。その掌の熱さに思わず目を閉じる。吐息。あえぎ、それから、ひゅっと吸いこんで息を止める。いきなり引き裂かれる力に、私はなすすべもなく、のけぞる。
ゆれる。風景がそして自分の身体が。突き上げられる。街灯の明かりがフラッシュのように瞼の裏に瞬いて、BGMに湿った音が響く。私は私でなくなり、ただの、濡れた肉の塊のよう。喘ぎ、押さえきれない声をもらす淫らな肉。
何もかもが本当のようでなく、何もかもが当たり前のように、すとん・・・と胸の中に落ちて。これでいい、ああ、これでいいのだ。と・・・。
色と光が混じり合う世界が音を立てて弾けて、ぽんっと終わりになり、私は放り出された。あの人はハンカチを取りだすと、自分のものを拭い、濡れた足の間をおざなりに拭ってくれた。
「しまえ。」
うん、とうなずいた途端に、足に力が入らなくなって、かくん・・・と砕けた。いきなりだったのに、測っていたように、あの人の腕がのびてきて、その胸の中に抱きとめられる。
その瞬間に抜けおちていた感覚が、雪崩を打って戻ってきた。
あ・・逝くかもしれない。
抱きとめられた腕の中で私は痙攣した。中途半端にパンティをストッキングを足に絡ませたまま。
なぜ、さっきでなく。
なんで、今なのか・・。
分からないままに、あの人の腕にしがみつく。
「いけよ・・もう一度、いけ。」
なぜ、この人の声は、いつも、こんなに、しらじらと醒めているんだろう。ただ、耳朶にに触れる息が、私の、心を震わせる。何も考えずに、身を任せていられる幸せ。
夜は、白い街灯の明かりが切りとる世界の、その光の外側にある。
なにもかも終わって、ようやく何とか立てるようになった私は、ふらふらと歩き出す前に、下着をあげないで、脱ぎ棄てて・・・くるくると丸めてバッグの中に突っ込んだ。
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