2009
狭間に・・・12
途端に、身体の中で蠢いていた手が、するりと抜け出て、風が動いたかと思うと、尻たぼに、大きな手が打ちつけられた。
派手な肉を打つ音が部屋に響き渡った。彼が私の尻を掌で打ったのだった。じんじんと痺れる痛みが、その場所に広がった。多分赤くなっているはず。掌の形に浮き出た赤さが、監視カメラの中に、写りこんでいるだろう。痛みが私を鋭く引き裂き、私は息をするのも困難な状態で、喘いだ。
続けさまに掌が打ちつけられた。痛みが襲いかかり、私は仰け反った。腹を椅子に打ちつけて、もがき、身体を捻じった。一打毎に、痛みが強くなり、なんとかして、打たれる場所を変えようともがく。身体を丸め、次には逸らし、跳ねては、しがみつく。
「ひいっ!」
我慢しようとしても、口を出る叫びを押し殺せなかった。
「いたっ・・・!痛いっ。」
憧れていた。縛られてお尻を叩かれたいと。自分のコントロールの外の苦痛。彼の膝の上で痛みに泣きたいと。だが、彼がくれる痛みは予想以上で、耐えがたかった。容赦ない打撃の下で、私は泣き叫んだ。
「やめて。痛いっ、いたあああいい。」
「いやあ!許して。お願い。もう、許して。」
何打ぐらい叩かれたのか、数えられないほどに、叫んだ。汗びっしょりになった身体を弾ませて、許しを請うて、泣き声をあげて。それが、来た時は、驚きの方が先だった。痛みが、変質していく事に。
私は声を上げるのを歯を食いしばって押し殺した。心を澄まして、それを見つけようと、掴もうとした。膨れ上がってくる物が、痛みを押しやり、熱くなった身体に、満ちてくる物を見つめた。抑えきれなかった、かすれた悲鳴が消えていくのと入れ違いに襲ってくる波。満ちて来る。うねり。
私は、それを見つけられるのだろうか。
大丈夫。俺が・・・。
教えてあげるから・・・・。
世界は遠ざかり。私は空白の海に漂い出たのだった。
