2009
狭間に・・・7

言われるままに、また、膝をずらして行く。吐息が熱く、頭の中が燃えるようだ。足を開くだけで何でこんなに恥ずかしいの。ただ、押しつけるように乗せられただけの彼の掌が、身体の中心に向かって、快感を呼び覚まして行く。
足を開こうとする身体の動きが、頭の中で、火花のようにスパークしてくる。足の付け根を男の中指がゆっくりとなぞりあげる。ぞくぞくっ、とするような、身体じゅうに広がる快感に、私は、また、大急ぎで足を閉じた。閉じたり、開いたり、それが、だんだんとうねりを作りあげ、そして、感じてしまうのだ。
「こら、言う事をきかないな?悪い人だね。」
「・・・言う事を聞かないなら、お仕置きしないとな。」
ああ・・・、私は、その言葉を頭の中で反芻した。何度も何度も、味わいつくそうと。しゃぶりつくそうと。
優しく動いていた手が、いきなりぐいっとストッキングを引っ張った。繊維が引きちぎられ、ビリビリビリ・・・っと、裂けていく。
蒸れて、汗ばんだ素肌に、空気が直に触れる。伝線して、いく、ストッキングの立てる音が煽情的に胸に響く。私は、ギュッと膝をつぼめて、そうさせまいとする。彼の手が、乱暴に動いて、私の肌を覆う、それを引っ張った。
男にストッキングを破られる。引っ張られて無理やり脱がされる。ぼろ布のようにわずかに残ったその隙間から、掌が入りこみ、ぴったりと足をなぞりあげる。
その行為の間、私は、身体を椅子のシートに押し付けて、椅子の足を握り締めて堪えた。
耐える?
違う。いや、違わない。男の与えた行為の、あまりの、刺激に、私は、くるめきながら、引きずりまわされ、自分の中を吹き荒れる、感覚を味わいつくそうとして、必死に、椅子にしがみついていたのだ。
身体も、心も、その感覚も、どこかへ吹き飛ばされそうになっていた。
素肌の上を乱暴に、掴みしめ、傍若無人に撫で廻した手は、最後に、一枚だけ残った下着のへりの所へ戻って来た。ぴったりと身体に貼りついている、薄い白い下着。濡れて、形も露わに貼りついているだろうそれを見られている事が、じっとしているのも耐えがたい恥ずかしさになって、私を突き上げて来た。
ひっくり返した掌の、人差し指の先が、するりと、パンティの縁を越えて潜りこんでくる。ぐいっと引っ張って、ぱちんと離す。
「濡らしてるね。」
言わないで、そんな事、わざわざ言わないで。それとも言って欲しいのか。言葉は、甘い恥ずかしさだけでなく、みじめな気持を呼び覚ます・・。気持がすっと冷えて、私は起き上がろうと椅子をギシギシ鳴らした。
彼の手がもう一度、下着の縁を引っ張った。
「切るよ。」
切る?言われた事が頭にしみこんで形を成すまでに、時間がかかった。下着を切る?そんなことしたら、帰りはどうするの?下着を履かないままで帰らないといけない。ストッキングはすでに残骸になって、床にぶら下がっている。
「いや、切らないで。」
「ふむ、脱がしてほしいの?」
その通り、帰りは、ちゃんと、服を着て帰りたい。切らないで。切らないで。そう思いながらも、じゃあ、脱がして欲しい、と、言葉にする事は難しかった。舌の上を、頭の中を、言葉が、行ったり来たり、恥ずかしい事を言わされようとしている。その事態に、思いが乱れた。
恥ずかしい事を言う事ではなく。相手が言わせようとしている事。それを受け入れようとしながらも自分が反発している事。そんな位置に、自分達がやっと辿り着いたのだという事。混乱が、私の中へ、奔流となって溢れ出していた。
長い、長い、夜に、恋焦がれた場所へ、今、自分が辿りつこうとしているのだという、想いが急激に、突き上げて来て、私は目が眩んだ。
続く
