2009
狭間に・・・8
ぐいっと引っ張られ、極限まで薄くなった布地の下に冷たい刃物が滑りこんでくる。あっと、声に出して言う暇もなくパチンと閉じ合わされたハサミの間で、細くなった布地は断ち切られてしまっていた。張力が無くなった下着が、だらりと下がって肌の上に落ちる。
慄然とする現実。切られてしまった…と云う、現実が、床を見つめる目の中に広がって来る。甘い押し問答も無く、やさしく焦らされることも無く。ぐいっと引っ張るだけで私の下半身は、何一つ覆うものが無くなっていた。
自分の姿勢が、どうやっても何も隠す事が出来ないものだという事はよく知っている。うつぶせに尻を突き上げた身体は、いくら、脚を閉じ合わせても何も隠せはしない。急にやって来た全てを晒しているという恥ずかしさが、ポンと私を、崖の下に、突き落とした。
急降下。
軽く、ダイブ。快感がスライダーのように滑り落ちてフアンッと、身体を宙に浮かせる。
「たまんない。」
わざと蓮っ葉な舌足らずのセリフを、音に乗せて見る。私が何をしているのか気がついた彼は、くっくっと、押し殺して笑った。
「たまんないなぁ。・・・そんな、とこが。」
それから、何度も何度も触れるか触れないかの距離を保ちながら、撫で上げてくれる。
彼は、私のスカートを一度降ろすと、椅子から、滑り下りて、私のそばに膝をついた。新たな縄で、今度は膝を椅子の足に縛りつける。ぐいっと引っ張って、ひざの内側を、椅子の脚の外側になるように押し付ける。それは、考えているよりも大きく足を開く事で、それが、また私を落ち着かなくさせた。
四肢を椅子に縛りつけられて、私はもう、なにも抵抗できない。その事を確かめようと身体を椅子から浮かしてみた。わずかに腹が浮く程度、ぴったり貼りついた、身体がはがれる程度。そんな不自由さを楽しんでいると。くすくす笑いながら彼は立ちあがった。
「何か飲み物を注文するよ。なにがいい?」
え?注文?
「なにがいい?」
椅子に座りなおした彼が、メニューを開いている気配がした。私は、椅子にうつ伏せに縛りつけられていて、起き上がれない。飲み物を飲めるような体勢じゃない。いや、そんな事は全く問題じゃなかった。注文するという事は、店員が部屋の中に入ってくるという事だ。椅子にうつ伏せになって起き上がれない私の格好を見るという事だった。
私は少なからず、パニックになった。彼の前でだけこうしているのだけでも恥ずかしいのに、そうしている自分を全くの赤の他人に晒すという事は考えても見なかったからだ。見せる事に私は全く興味が無かった。だから、それをしたいと思った事がなかった。しなければならなくなるなんて考えても見なかった。
「いや」
「ん?」
「人を呼ばないで、見られるのは嫌。」
「ああ、そうか。」
一瞬の沈黙。不安。安堵。ないまぜになった恐怖。
「ん、そうだね。」
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「けど、君には選べないだろう?」
続く
