2008
ね・ネット調 教・7
見られているかもしれない。そう思いながら、カメラの前で生活する事に、慣れる事は無かった。いつも、常に、どんな時も、カメラを意識してしまう。本を読み、爪を磨き、手紙を書く。
私はテレビを観る事が無くなった。怠惰な様子でテレビの前にいる姿を、彼に見せたくなかった。
空いた時間に、英語の勉強を始めたり、新聞をくまなく読んだりする。部屋をきちんと片づけ、小まめに掃除をするようになり、今まで以上に、服装や、髪型を気にするようになった。カメラの前では、いつも素裸だというのに、部屋の外でも美しく見られるように、装いを凝らす。
きびきびと動くように、心がけた。背筋を伸ばし、手足を伸ばす。指先まで美しく見られたい。そう願い、行動する。そして思いを巡らす。私を見ている人は、どんな人なのだろうか・・・・と。
コロロン・・
連さんが話しかけてくる。その音は、私の心を弾ませる。呼ばれれば、私はPCの前に駆け寄るようになった。ウェブカムを頭につけるのももどかしく、パソコンに浮かぶ彼の文字を追う。
「今日は、仕事はどうだった?」
何気ない質問から始まる蓮さんとの会話に答えて、私は、ドアの外での行動を、逐一、蓮さんに報告した。天気の話さえ、彼に伝えるのが嬉しかった。そして、私の一日のすべてを彼は把握するようになる。ランチに何を食べて、誰と買い物をし、何を買って、どこへ行って・・・・。何を思い、そして、どんなに急いで帰って来たか。
それから、会話は雑談に移って行く。蓮さんは文字で、私は言葉で。ごく自然の流れで私の方が多くの言葉を口に出す事になる。私の何もかもを蓮さんは知って行く。私に与えられる、蓮さんの情報はあまりにも少ない。
選ばれた、言葉。あの独特の不思議なリズムの言葉・・・・。
それから、SMチャットで出会った私たちの話は、自然にSMの事に移って行く。
どういうことされたことがあるの?
どんなふうに?
どう感じたの?
何を思った?
もう一度してみたい?
だとしたら、どんなふうに?
なぜそう思うの?
質問の合間に、蓮さんが淡々と自分の話をする事もあった。今までに何十人もの女性と付き合い、そして、通り過ぎて行った思い出を。聞いているだけで、鳥肌が立ってくるような、責めの話。彼の言葉に渇えている私は、その一言一言を食い入るように見つめてしまう。
身体の中心が熱く燃え、眼はうるみ、乳房が内側から張りつめてくる。とろけるような感覚が足の間に広がり、私は、それを蓮さんに隠そうとするのだけれど。もじもじとする身体の動きは、誰が見ても不自然だっただろう。
「乳首が立ってる」
指摘され、反射的に、私は掌で乳房を覆ってしまう。
「ゆみか」
我に返った私は、びくっ!っと、震え、おずおずと、覆った掌をどけるしかなくなるのだ。興奮のために、パンパンに膨らみピンと皮の伸びた乳房は、ちょっと触れただけで、じーん・・・と痺れるような心地よさが広がった。
「あ・・・・・」
「感じたね」
「いけない子だね。黙ってしようとするなんて」
「違います。私・・・・」
「口答えしてる」
唇を噛んで、私は言い訳の言葉を押し戻した。
「悪い子には、お仕置きしないとね」
え・・・。その文字は、まるで点滅するかのように、私の瞳に飛び込んできて、視界いっぱいに拡がった。聞こえていたはずの、流れていた音楽がいつの間にか途切れ、辺りはただ静謐な空間だけのようになる。その真っ暗な闇の中に、欲望でいっぱいの私は、浮いている。見えているのはその文字だけだった。
世界中のなにもかもが無意味になる。あるのはネットの先につながる人だけ。この一本の線の向こうに座っているはずの誰かだけ。私を支えている何もかもが消え去り、あまりの不安定さに、私はしがみつく場所を探そうと、ノートパソコンの上に、乗せていた掌の膨らみを、PCに、ギュッと押し付けた。
「乳首を摘んで」
私は瞬きした。意識しないはずの、瞬きをした事が分かるくらいにはっきりと。いつの間にか唇が小さく開かれ、私は口から空気を求めて胸を上下させている。身体に残っているさっきの快感が、さざ波のように体いっぱいに拡がった後に、ゆっくりと、身体の中心へと戻ってくる。そして、熱くなった下腹部は、その波に揺られるかのように、規則正しく呼吸していた。膨らみ、そして、縮む。その度に、熱は高まり、心地よさが駆け巡る。
私は、おずおずと、右手を持ち上げた。そして、左側のツンと尖った乳首を摘んだ。じん・・・と、さっきよりも強い快感が乳房に満ちる。
「もっと強く」
愛撫しちゃいけない。お仕置きなのだから。私は指先に力を込めて乳首を押しつぶした。
「強く捻じって」
痛みが・・・・拡がった。
続く…
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