2008
お仕置き・61
琴音・8(第二部・義母)を先に読む
琴音・16(第三部・義父)を先に読む
琴音・20(第四部・お披露目)を先に読む
★琴音・28★
智也は、琴音の反応を予想していたのか、まったく、慌てずに、その身体を受け止めた。そして、もう一度、台の上に引きずり上げると彼女の両手首を掴み、頭上に捻り上げた。台の下に隠れるように下がっていた、革紐が彼女の手首にくるりと回され、手早く引き絞られた。腕は肘から頭の後ろへ向けて曲げられ、もう、自由にならなかった。智也は手首の皮紐がそれ以上締まらないようにするために、とりつけられている金具を調節すると、彼女の驚きと絶望に見開かれた瞳をじっと覗きこんだ。
お互いに一言も交わす事無く、ただ、見つめあう。瞳の奥にすべての答えがあるかのように。救いがあるかのように。
だが、智也は、二人の間のつながりを振り切るようにふいっと、視線を逸らすと、彼女の脚を吊り上げるための作業へ戻って行った。

「いやああああああああっ!」
反対側の足首を掴まれた、琴音の止まっていたいた時間が動き出した。がっしりと掴まれて、ふりほどく事の出来ない男の力に、渾身で逆らいながら、彼女はもがいた。脚を開かれたくない。頭にあるのはそれだけ。身の安全を考えない動きに、再び彼女の身体は台から滑り落ちる。
だが、手首と右足首に科せられた縛めと、左足首に食い込む彼女の夫の手は、彼女を自由にしてくれなかった。夫の手のひらの代わりに、固い皮の枷が捲きつき、締められる。ガチャッっと、金属の鳴る音がして彼女の四肢は、自由を失った。
「いや!いやっ!やめてえええ・・・!」

スチールバーを天井につないであった鎖が、ウィンチで、巻き上げられ始めた。無情な機械音とともにバーは吊上げられて行く。開かれた脚は引き伸ばされ、何もかもが無残に、引きはだけられて行く。
「いやあああああっ!やめてっ!やめてえええええっ!」
腰を跳ねさせさせ、膝を曲げる。だが、台の上から、尻が持ち上がるまで、ウィンチは止まらず、彼女の身体は肩を台に乗せているものの、すでに吊上げられている状態だった。もがいても、腰をひねっても、脚を閉じる事も、隠す事も出来ない。
力を込め、身をもががせ続ける琴音の喘ぎを、切れ切れの泣き声が、揺れる鎖の音とともに辺りに響き続けた。
「あっ。あっ。あっ。あっ。・・・・ああああ・・・・。」
諦めるしかない。その事を琴音が悟り、身体の力を抜くまで。

琴音は、今、自分が置かれている状態が信じられなかった。無我夢中で、暴れていた時間が過ぎると、諦めとともに、空中に放り出されたような浮遊感を伴う現実感の無さが、彼女を捉えた。あり得ない現実。あり得ない事実。こんな事が我が身に起きるはずが無い。
新たな涙が溢れ、瞳に盛り上がり流れ落ちる。
その感触とともに、戻ってくる時間、周囲の音。そして、羞恥心。わずかに上半身を覆う乱れた着物と、むき出しになって腹まであらわになった下半身と。かああっと身体が熱くなり。たくさんの人たちの視線が肌に突き刺さり、すべてをさらけ出している事が、耐えがたく胸を苛む。
もう一度足を閉じようとした、琴音は、身体を捻り、スチールバーに繋がれた金具を鳴らした。その音は、ただ、琴音に絶望をもたらしただけだった。そして、ひゅうううん・・・っと、空を切るケインの音が彼女を我に返らせた。
続く
