2007
18の秋
18歳という歳は、もう大人だと思い込みたい自負と、経験の無さを知られたくないと思う薄っぺらなプライドの狭間に過ぎていったと思う。一学年下のクラブの後輩の、憧れに縁取られた何の疑いも無い笑顔を、泣かせてみたいと思わずにはいられない欲望。それを、自然に表現するほどは、経験もなく、度胸も無かった。それでも、彼女のすらりとした立ち姿に欲望を振り向けてみたい・・・。そんな思いは抑えがたいほどに僕を支配して、居ても経ってもいられないような気持ちにさせるのだった。
ちょっとした、冷たいそぶりや、残酷な言葉に涙を浮かべながらも、どこかもじもじとした様子で擦り寄ってくる彼女の瞳の中に、明らかな被虐の願望を見たのは、僕の思い込みだけじゃなかったはずだ。

どういう話からそんな事になったのか、もう記憶に無い。
「見せて欲しい。」
その言葉に、真っ赤に染めた頬をためらいとともにうなずいた彼女も、いつ人が通るか分からないような、通りの壁に、僕が縄を掛けて彼女をくくりつけようとすると、顔色を変えて抵抗したものだった。
少女のもがく身体を壁に押し付けて、無理やり縄を結びつける時、興奮しきった僕の手はかすかに震えていた。その硬いこわばりを彼女の尻にきつく押し付けると、まだ、一度も男に許した事のないという硬い蕾のような彼女は、かたかたと歯を鳴らしながらもじっと、膝をきつく閉じ合わせてこらえていた。

スカートを捲くると、真っ白な綿ローンのかすかに透けた布に覆われた身体が現れる。恥ずかしさと恐怖のない交ぜになった感情に、身もだえしてみせる彼女は、まだ、一度も知らない暗い淵を辿っていくような悪い遊びへの期待と、それを上回る屈辱にはらはらと涙を零して見せたものだった。
そんな物に、ほだされるほどの純な気持ちは、大人ぶっている子供の男にとっては、邪魔なだけだったのは言うまでもないだろう。むき出しになった下半身の、少女の尻をぴしゃりと叩くと、僕は1メーターほども下がって、腕を組んで彼女がくねらせる尻を見つめた。

「さあ、早くやって見せろよ。」
悪ぶって、どすを聞かせた声に、彼女の肩がびくりと揺れた。いつ、誰が通るかわからない場所で、立ったままの排尿を強いられている少女は、縄でくくられた拳を握り締め、何とか決心をつけようと、身を揺すっていた。さっき、たんと水を飲ませてきたとは行っても、まだ、差し迫ってるわけでもない尿意に応えて、排尿するのは決して簡単な事じゃない。
「早くしないと人が来るぞ。」
「あ・・・。」
うろたえ、思い乱れた様子で、ざらざらとした壁に頬を擦り付けながら、彼女は足を何度も踏み代えた。好きな男に羞恥をさらす事への躊躇いと、誰に見られるかもわからない恐怖が彼女を追い詰める。
熱い吐息を拭き零しながら、彼女は、最初の会談を飛び降りた。
そんな彼女に再会したのは、それから10年も経っていただろうか。固い蕾だった少女は、他の男の手によって、美しく咲きその絢爛の様を周囲に誇っていた。
一言、二言。脅しただけだった。
真っ青になり、震えながら、哀願しながらも、きらきらと被虐に濡れる彼女の瞳は、彼女がこの十年で変わりえなかった事を、はっきりと僕に教えた。

蜘蛛が獲物を捕らえるように彼女を捕まえる?いや、そうではない。美しく蜜を滴らせ、蜂を誘う、咲き誇る女。惹きつけられ、囚われるのは僕の方だった。縄を手繰り寄せ絹紐を引き抜く。手繰り寄せる身体は、かってとは違いたよたよと熟れきっていた。
青いレモンのようだった、体臭は、すっかり先ほころんだ多弁の花のように、僕の心を掴んで引きずり回すのに充分だった。

逆らい、惑い、うなだれては、訴える。泣いては、俯き、そして抵抗する。愁嘆場を繰り広げながらも、徐々に、徐々に、男を引き寄せる美しい花。そらしたうなじに唇をなすりつけ、息も出来ぬほどに抱きしめてみる。縄をまといつけた身体がくなくなと腕の中で泳いだ。
痛みに喘ぐ、その唇がぽっかりと闇に咲きほころぶ。あまりの艶々しいその美しさに、僕は、10年の失った月日を惜しまずにはいられない。

「やめて。許して。」
婀娜な流し目のうちに、女が誘う。
「いやいや。お願い。誰にも・・言わないで。」
その言葉は、私の耳には「晒して」と、聞こえる。あの秋の日にしとどに雫を垂らしながら、濡れた下着をこれ見よがしに突き出しながら。許して許してと泣いた少女。今や、恐ろしく美しく妖しい流し目で僕を誘ってくる・・・・。

・・・忘れられなかったんだろう?あの衝撃が、あの羞恥が、あの縛めの味が・・・・。もちろん、もう一度、味あわせてあげる。欲しいものは、何でもあげよう。明るい光の、日差しの中で、黒い下着に身を飾る。もう、君はあの頃の少女じゃない・・・。
「いやいや・・・お願い。」

言葉に出さずとも、態度で示さずとも・・・君が求めているものは、分かっている。縄をしごいて胸を高鳴らせながら、繋いだ身体を撫で回し。身体を隠す布を引き裂いて・・・・。

そうして、僕は一気に10年の時を越える。青年期の終わりに、僕を夢中にさせた美しい少女の、幻を追い、夢にたゆたう。君の満足をまかなって、思いっきり悲鳴をほとばしらせるためなら、僕のすべてを傾けよう。運命も、愛も・・・・。

君の鎖に繋ごう・・・・。
