2012
白昼夢3
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その鞭は、自転車のタイヤのチューブに使うゴム板を2センチほどの幅に切ってあるゴムで出来ている。ホームセンターへ行くと一束280円で売られている。トラックの荷台の荷物が落ちないようにかけるためのゴムだ。そのゴムを適当な長さでくるくると巻き、一箇所をパンの袋の口を縛ってあるようなビニタイでまとめて止め。もう一度そのビニタイで、止められた場所を二つ折りにして巻いてあるだけの鞭である。
そして、この鞭は、音があまりしない。多分バラ鞭のような構造になってはいても、短くくるくると巻かれているせいなのだろう。その代わり外すこともない。自分の手の延長線のように振った所へそのまま打ち付けられる。肉を打つバチッという音が弾けると、表皮の上を熱くて鋭い痛みが、ぱあっと拡がる重さはないので、奥までは届かないが、続け様に打っていると重なっていく広がる痛みが共鳴しあうのが分かる。
私はその鞭の一振り一振りに、身体を跳ねさせながら、小さな悲鳴を上げながら、ベッドマットにしがみつくように爪を立てていた。背中にもお尻にも交差し肌を埋め尽くす痕が浮き上がっている。
「上を向け。仰向けになるんだ。」
男は冷たく言い放つ。私は、一言もなく、ただ上がっている息をつきながら身体を反転させた。手首の一つでも縛ってもらっていたらもっと違った展開になっていたかもしれない男は。私を縛るのを面倒がった。縛られた女は自分では動けない。それがまた面倒なのかもしれない。
仰向けになれば打つ場所は決まっている。横に流れて力ない胸と醜く段をつけた白いうねる腹と。彼は、ただ黙々と私の身体の上に腕を振り下ろす。さんざん打ち尽くされて、しびれるような熱さになっていた背中とは全く違う。新しい皮膚に新しい痛み。
歯を食いしばっても、声が漏れる。痛みが身体に刻み込まれていく。身体を捻り、悶えさせている私の足が緩んだ。
すると男は、その足の間の一度も打たれたことがない場所をめがけて鞭を振り下ろした。
叫び声を上げたことすら気が付かなかった。身体を縮め、熱く焼けるような痛みが拡がって消えて行くのをただ待っているだけしかできない。子供のように小さくなって、丸く小さなひとつの珠になって。消えてしまえたらどんなにかいいのに。
「ほら、足を開くんだよ。」
男は、自分の足でもどかしげに私の足を蹴り広げた。恐ろしさのせいで恥ずかしさなんて意識する暇もなかった。
「いや、痛い。」
なんとか足を閉じようとしても、膝の内側に入った男の足が容赦なく足を押さえつけている。
「ここ、打つぞ。」
「や・・・」
「何回我慢できる?」
男の中では、その柔らかい粘膜を再び打ち据える事は、すでに決まった事のようだった。
「何度だ?」
「じゅっ・・・五回。」
「十回だ。」
「やだっ・・五回・・。」
「十回だ。ほら、足を拡げないか。自分で数えるんだぞ。」
私は、魅入られたように震えながら足を開いた。少しずつためらいながら。男の足がその間に入り、閉じられないようにこじ入れられた。ヒュッ・・・。黒いゴムの塊が落ちてくるのが見える。私は、思わず目を瞑る。
ビュッ!!
焼け付くような痛みというのをご存知だろうか。日頃感じることのない、破裂するような衝撃による痛み。一瞬で弾けて皮膚の上を焼き尽くしていく。
「あああああっ!」
叫んだ時に吐き出した息を大急ぎでもう一度吸い込み、自らの身体を硬くしてその痛みをやり過ごそうとした。ドット汗が噴き出してくる。
「い、一回・・・。」
その痛みが治まらないうちに、次の鞭が噛み付いてきた。私は、のけぞって、その痛みを受け止める。
「ひぃやっ・・・二回・・・・。」
部屋の壁を意識していた感覚がどんどん薄れて、部屋が拡がっていく・・。闇が拡がっていく。外側に広がる意識と、身体の奥に縮んでいく想い。その間を切り裂く純粋な痛みに私は身体をのたうたせる。6回目を数えた頃だろうか、鞭と鞭の間隔途切れて、私は、目を開けることが出来た。逃げる事を許さないかのように立ちふさがる男の身体。そして、見降ろしてくる何もかも受け入れてくれる優しい目。そして、珍しく勃ちあがったその身体から、先走りの滴が私の上に滴った。
興奮している。
私を打って。この人は興奮している。私が悲鳴をあげ、痛みにもがき、その身体に浮かび上がる赤い縞模様を見て興奮している。白い闇が外側から縮んできて世界を埋め尽くした。なにもかもが、今日のこの瞬間のために会ったような気がして、私は涙を吹きこぼして泣きながら叫んだ。
「じゅっ・・かー・・い。」
満ち足りた。完成した。許された。贖罪は果たされた。
4へ続く・・・
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