2020

06.30

閉じました



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 医療用ホチキスは正式には「スキンステープラー」と呼ばれます。私も、足の手術をした時に、術後がいまいちよくなくて、もう一度傷を開いて(汗)中を綺麗にして閉じ合わせた時に使われた事があります。まだくっついてなかったとはいえ、縫ったところを開いてもう一度やり直したんですから、痛かったです。しかも、麻酔もなしに。orz しかし、医者はああいうときは容赦がないですね。(笑)「痛いから」の一言で、問答無用って感じにバシバシやられちゃいました。

 さて、今日は、そのスキンステープラーはまったく関係ない話しです。

 昨今、わたくしは、M男性を「奴隷」と「執事」の二つに分類しています。まあ、ものすごく適当で、しかもいい加減な分類方法ですし、根拠もないので聞き流してくださいませ。分けるのは本人の申告を参考にします。

 「奴隷」のカテゴリの方は「徹底的な身分の差を感じさせられたい」「人間じゃないように扱われたい」と、主張します。なので、たいていは全裸になるようです。リードで部屋を引き回されますし、気まぐれに理不尽に鞭で打たれ、蹴られ、気分次第で怒鳴られます。起きる出来事については意見を求められることはなく、考えたり、抵抗したりすることはありえないことだったりします。なのでS女性がシロと言えば、どんなに真っ黒でもシロと言わねばなりません。

 「執事」の方も理不尽な扱いを受けるのは変わらないのですが、一応「人間」です。そして、S女性にお仕えしています。執事には行動に割と正解ってものが存在します。レストランの予約を頼まれたとき、希望の日に予算の範囲内で、できるだけおいしく、リラックスできる店を探す能力が必要とされます。先回りして問題解決する気配りがあると褒められます。SM的行為以外にも、役割的に送り迎えや家事手伝い、買い物のお供、身の回りのお世話などを与えられたりします。ただ、使用人って言うよりは、家来のような位置づけでしょうか。くちごたえできないんですから、やっぱり身分の差はあることになっています。

 この「身分の差」って、なんなのかなぁ?って、考えたときに、理不尽な扱いに反抗してはならない・・・って、ことがあるのかもしれません。S女性が鞭をしようと思った時に、痛いのは好きじゃ無いからとか言えないわけです。(嬉) 「恥ずかしい?」って、尋ねられたら「もう慣れてて恥ずかしくないです」とか、言うと台無しになっちゃいます。すべてにおいて、仰せごもっとも。仰せのままに。って、奴ですね。

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    2020

06.29

リード




あなたの軛に囚われたいのです
全ての自由 全ての行動を
約束の印として首輪をください
どこにいても 遠く離れても
私はあなたのものだという確かな印を

会うことができなくても
思うことしか許されなくても
私の心はあなたの足下に居続ける

約束してくださったでしょう
そこにいる限り 私はあなたのものだと


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 首輪に対するこだわりは男女間に特に差があるようには思えませんが、リードはまた別物です。リードを欲しがる男性は多く、それも、惨めに部屋の中を引きずられたい思いが強いです、まあ、本人たちは楽しいのだからいいのですが。(笑)

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    2020

06.20

今思うとこっちはマジ




「地獄 2」

 目眩がして、降りようとした階段の上で足元がふらついた。
 危うく頭から池につっこみそうになり、俺の手首を縛った縄を引いていた獄卒は、乱暴にその縄を引いた。
「こんなの嘘だろう。ありえないだろう。こんなことで地獄送りになるなんて、信じられない」
 涙がぽたぽたとこぼれた。自分の人生を振り返ると決して自慢できた行いばかりでは無かったけれど、それでも、地獄に落ちなければいけない理由が、口淫が好きだからなんて。  
 納得がいかなかった。それくらいならむしろ、女を騙して金を貢がせたとか、気にいらないとひっぱたいたとか、女を不幸にしたことを罵られたほうが理解できる。
 多くの子どもの可能性を無駄に女に喰わせた。鬼はそう宣言した。
 多くって、それが精子なら、一回の射精で一億って数だ。けれど、セックスしたってそのほとんどが卵子に到達する競争過程で打ち負かされてしまうはずだ。しかも、たいていは、そういう競争をするチャンスすら無く、行き着く先は、結んで捨てられるゴム溜まりの中だ。子どもを作るための交合なんて、選ばれたカップルのほんの一時期だけ。現代じゃほとんどまれになってしまっている。もちろん俺も、俺の子どもを産みたいなんて女に出会う幸運なんか訪れはしなかった。
 男なら誰だって知っている。一生のうち作り出す精子のほとんどは、女の子宮の中じゃなく、次の瞬間はゴミ箱に捨てられるティッシュに拭われるか、トイレに流されるかしてしまうものだってことは。
 
 足元を確かめながら、促されるままに黒い石の階段を降りていく。階段は途中から池の中に消えていき、意識は本能的に先へ進むのをためらうが、後ろから来る獄卒が今度は後退るのを許してくれない。
 覚悟を決めて、階段を降り続け、池の中に身体を沈めた。顔が沈む時の恐怖は、生きていたときの残滓なのだろうか。肺の中に水が流れ込み、身体のすべてが池に沈むまでが一番苦しく、身体はもがきながら水面に浮上しようとした。だが、手首の縄はびくともせず、浮いた身体も縄に引かれてなすすべもない。肺がいくばくかの大きな泡を吐き出すと、やがて、身体はゆっくりと沈み始めた。
 先程足が離れた階段の角を足で探る。あと一、二段降りると、歩く度に砂が湧き上がる池の底だった。
 池の底は、すべてが緑色に霞んでいて、足も腕も重く、一歩一歩がゆっくりとしか動けない。時々銀色の腹をきらめかせながら、ついっと肩をかすめるように泳いでいく黒い魚は、人を恐れず馴れ馴れしく身体を寄せてくるのが不気味だった。
最初は、昆布だと思った遠くの方に揺れている黒い影は、足を繋がれている人間たちだった。顔を歪め、苦しみに、うおううおう、呻いている。進むに連れ、地の底を這うように低い呻き声は四方から押し寄せてくるようになり、これから、どんな目に合わせられるのかを思うと、膝は笑い、その場にしゃがみこみそうだった。

 老婆はその並ぶ人柱の奥に待っていた。黒い布を頭から被って、皺だらけの顔と手をその影に隠している。あまりにも皺くちゃで人相すらもはっきりしなかった。獄卒から俺を縛る縄を渡されると、その顔が少し微笑むのが見えるような気がした。それからその小さな老婆は、地中から生えている足枷のところに俺を連れて行くと、両足を少し離してそこへ繋いだ。
 想像していたよりもずっと滑らかで優しい手がゆっくりと足首を握り、反対の手がしっかりと足首に新たな枷を巻き付けていく。両足が池底に捕らわれると、どういう訳か足が浮き上がりゆらゆらと揺れる昆布の群れに加わった。
 それから老婆は、俺の来ていた服を細いカミソリのようなもので切り開き、俺を素裸に剥いた。切り裂かれた服は、老婆が手を離すとゆらゆらと池面に向かって漂っていった。次に手首の縄も切られ、それもすぐに漂っていった。
 次に老婆は、地面から駕籠を持ち上げると、そこに山盛りに盛ってある丸いものをひとつ持ち上げてみせた。半透明で丸く卵の殻のように滑らかな表面に僅かな凹凸が影をなしていた。
 さっきの魚が老婆の肩をかすめ、それが、この魚の卵だということを教えてくれる。魚たちは揺れる人柱の足元に置かれている駕籠の中にせっせと卵を産み付けていたのだった。
 老婆が身振りで口を開けるように示した。池の中では、はっきりとした言葉を喋ることが出来ないのかもしれない。俺が口を開けると、老婆はその口に、さっき示した卵を押し込んだ。
 うえっと喉がえずき、身体が飲み込むことを拒否した。卵は、固く丸く、どうやったって喉を通りそうにない大きさだ。だが、老婆は次の卵をその上にまた、押し込んでこようとする。池の中にいるのに冷や汗が吹き出すのが分かった。必死になってどうにか卵を喉の奥へ奥へと送り込もうとした。早く飲み込めと言うように、肩へ、魚が次から次へと頭をぶつけてくる。
 口を閉じないとうまく飲み込めない。俺はもがきながら、目で老婆に訴えたが、老婆は優しく微笑みながら、また、次の卵を喉奥に押し込んで来た。籠いっぱいの卵が俺の腹の中に納まるまで、おれは、のたくりけいれんし、げえげえ言いながら、努力を続けなければいけなかった。
 老婆は、空になった駕籠を俺の足元に置いた。すると、思ったとおりさっきの魚がヒレを振りながらその籠の傍に寄る。足の下で何が行われているのかは分からないけれど、遠くを見れば、少しずつ増えていく卵の上で、みなが苦しんでいる様が見えた。
 老婆は、一仕事終えたとうなずくと、ゆっくりと水の中を俺から離れていった。次の誰かの山盛りになった駕籠を見つけに行ったのだろう。

 硬い卵が身体の中をゆっくりと下がっていくのが分かる。くねくねと長い道のりを自分の存在を主張しながら。挿しこむような痛みが起きて、腹をかばおうとくの字に身体を捻った。涙はずっと止まらなかったけれど、池の水に溶けていくばかりだった。身の不運を誰かに訴えることも出来ない。
 運命がこの先どうなるのかは、向こう側で苦痛に揺れている他の者の身体を見れば分かった。やがて腹を通って来た魚の卵を、それが通過する度に顔を歪めてうんうんと唸りながら産み落とすしか無いのだ。産み落とされた卵は池の底に落ちると粉々に砕け、その中から一匹の稚魚が産まれ出ていく。
 どうして。俺は、俺のものを喉に突き立てた女たちの苦痛と陶酔の表情を思い出しながら、身悶えた。どうして、許されないんだ。確かに嫌がっている女もいた。でも、喜んでいる女だっていたじゃないか。傷つけられ、飲み込めない、食事が出来ないと言いながらも、次も諾々と俺のものを受け入れていた女もいたじゃないか。
 ただしゃぶらせるだけじゃなく、自由にしたのがいけなかったのか。髪をつかみ、喉を思うさま突いたのがいけなかったのか。あの白濁の中に自分の子どもたちがいたというのか。そんなはずがあるか。そんなはずがあるはずもない。だって、俺には一度も、ただの一度でも、家庭を作る機会なんてなかった。そんな人生じゃなかったじゃないか。
 だけど、それを選んだのは自分だった。どこかの曲がり角で、何番目かの女で、ちゃんと選んでいたら……。辛い坂道を真面目に登っていたら、こんなことにはならなかったと鬼は言いたいのだろう。だけど、イラマチオが好きだったのだからしょうがない。この結末を我が身で味あわない限り、現世の俺は、何度やり直してもそれをやめられないだろう。
 どれくらいの時間身悶えていたのか、やがて、めりめりめりと硬い玉が出ていこうとして、身体を押し開く痛みを感じた。腹の中の卵は石のように重く、身体の中でごりごりと身を擦り合わせている。
 もしも、女の喉の奥に吐き出した精子の数だけ卵は飲み込まなくてはいけないとしたら、それは、永遠と同じじゃないか。いつまでも終わりはしない。俺は、ついに、底の底まで行き着いてしまったんだ。帰る道はない。
 その時、小さく白い稚魚が揺れながら浮いてくるのが水の向こうに滲んで見えた。嗚呼。産まれ出た地獄の魚に、命は、あるのだろうか。

 地獄に雨が降っていた。静かにしとしとと。視界はどこまでも続くようでいて、どこかで途切れているはずだ。この世界は閉じている。そうだ。今まで生きてきた世界と違って。



 
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    2020

06.17

いま思うとコメディ

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「地獄」

 目を覚ますと眼の前に美しい鬼がいた。万華鏡のようにきらめく銀色の目に、銀色のさらさらと流れる髪の毛。髪の生え際の上には、赤い小さな角がふたつ。まるで、愛らしいアクセサリーのようにちょんと突き出ていた。ミルクの中に桜の花びらを浮かべたようなピンク色の肌は、思わず手で触れたくなるような滑らかさで、うっとりとするような起伏を描いている。
 だが、手を伸ばそうにも私の腕は私の思い通りにならなかった。どうやら一つにくくられて頭の上に引っ張られている。何度かひきよせようとこころみて、ようやく縛られていることに気が付いた。
 周囲を見回すと、空は真っ暗で星一つ無く、私自身の体はごつごつとした岩の上に裸で横たえられているようだった。みじろぎする度に背中がずきずき、ひりひりと痛む。
「これは……どういうことだ?」
 のしかかってきていた鬼は、これまた銀色のドレスの長い裾をさばきながら、私の腹の上に座り直し、にっこりと笑った。その微笑みに、私はぞっと総毛立った。
「どういうこともこういうこともないわ。見たとおりよ」
「だが、見たとおりとは?」
 ふふん、と、鬼は鼻で笑った。私の顔色が変わり、じっとりと冷や汗がにじみ出るのを眺めて楽しんでいる。
「私が誰だか分かるかしら」
 鬼は、立ち上がると、きらきらと雲母のように光るものに包まれたつま先で、私の腹を突き始めた。私は、答えるのを躊躇った。はじめから分かっているとしても言葉に出して確認することは別問題だった。つま先が与えてくる痛みは段々と強くなり、私は、腰を捻って、つま先が当たる場所をずらそうとした。
「そうよ。鬼が番をしている場所はどこ?」
 私は答えられなかった。夢を見ているのだと思いたかった。それで、私がわずかに首を横に振ると、鬼は、くすくす笑い始めた。やがて、その笑いが大きくなり、高笑いで終わると、彼女は力を込めて私の柔らかな脇腹を踏みつけた。私は悲鳴をあげた。
「ここは、地獄よ」
 ああ、やっぱり。そう思う気持ちと、そんなはずはないという気持ちが、複雑に絡まりあい、ありとあらゆる後悔と吐き気が同時にこみ上げてきた。
 だが、確かに私は人の手本になるほど素晴らしい人間ではなかったかもしれないし、間違いもおかしてきたかもしれないけれど、だからといってまさか、地獄に落ちるほどの悪人でもなかったと思う。

「どうして、どうしてなんだ。私は、地獄に落ちるようなことはなにもしていない」
「あら、そうなの。でも、それは、しょうがないわ。あなたは変態だもの」
 私は、心底びっくりして移動をやめ、彼女の瞳をまじまじと見つめてしまった。さっきまでの恐怖が、頭の後ろの方に滑り落ちてしまい、いつもの悪い癖がむくむくと立ち上がってくる。私は、妙に理屈っぽく、自分の価値観に合わないことを言われると腹が立って後先を考えなくなるところがあるのだった。
「変態だって?」
「そうよ。だって、あなたは女の子のお尻を叩いては喜んでいたでしょう?」
「違う!それは違う、絶対違うぞ。第一、あれは世に言う『お仕置き』ってやつなんだ。性癖とは無縁の教育的行為だ。変態なんて言われる筋合いはさらさらないぞ」
 今度は鬼のほうがびっくりする番だった。
「まあ。あなた、ほんとにそんな事を信じていたわけじゃ無いでしょうね」
 信じていた。いや、信じていたのはお尻を叩かれる側の女の子たちの方だったのだけれど。だから、お尻を叩く側の私たちは、彼女たちの紅く腫れ上がったお尻や痛みにくねる有様を見ても、まったく欲情していないそぶりを貫きとおしていた。
「やっぱり変態よ。まちがいなしに。そのうえ、嘘つきね」
 大げさに鬼がうなずくと、私の反抗心は再び渦巻く。
「だって、教師とか熱心な親だって、子どもをぶつことはあるだろう?それと同じだよ。イギリスのことわざにもあるだろう。『鞭を惜しむと子どもをダメにする』相手が正しく育つように、私は、彼女たちの面倒をみて、指導していただけだよ。そもそもあれは、みんな相手が望んでいたことなんだ」
 鬼は、呆れたように首をふり、それから、今度は私の腹の真ん中に尖った踵をぐりぐりと押し付けた。
「言い抜けようったってだめよ。あなたは、あれが大好きだったし、とっても楽しんでいたでしょ?あなた達は、お互いにそんなふりをしていただけで、ほんとは自分たちのしていることが教育じゃないってことはよく知っていたはず。ごっこ遊びをしていたんでしょ?」
 鬼は、小さく溜息をついた。
「私の所へ来る変態達はみんな分かってないけど、変態はみんな地獄に来ることが決まっているのよ。あなた達変態にとっては、天国っていごこちがよくないの。それに、誰かにとっての地獄がすべての人にとっての地獄でもないし」
 鬼がさっと手を振ると、仰向けに横たわっていた身体は見えない手によってゆっくりと持ち上がり、腕はぐいっと上へ向かって引き伸ばされた。いつの間にか眼の前には白い石の柱があって、私はその途中に突き出ている金具に吊り下げられているのだった。足はようやく爪先立って床に付くくらいで頼りなく、踏ん張ることもできなかった。腕が痛い。
 視点が変わったので恐る恐る周囲を見回すと、その石の柱は海のように広い池の周囲に等間隔で並んでいるのだった。あまりにも広いので池の縁に波が寄せてくる音が暗闇に響く。そして、柱はどこまでも続いているように見えた。それでも、この空間には終わりがあり、星の無い空のように思えたものは、一番向こう側で壁のように地面と交わっていることが感じられる。
 一番近い柱までは六メートルほどあるだろうか。右の柱にも私と同じように一人の男が繋がれていて、やっとこのようなもので身体を抓られていた。男はその度に甲高い悲鳴をあげ、泣きながら許しを請うているようだ。左の柱には鱗のように身体中に蝋の模様をつけた女が足を広げて逆さ吊りになっていて、足の間には大きな赤い蝋燭が突き立てられていた。
 ここは、本当に地獄なのだ。
 私は言葉もなく、右を見て、左を見た。やがて、右側の三本向こう側のぼろぼろの女が声もなく、ぴくりとも動かなくなると、責め立てていたたくましい男の鬼が、その女を柱から降ろすと、躊躇なく池に突き落とした。
 死んだのだろうか。
 そんなはずは無かった。地獄にいるのだから、もう死んでいるはずだ。そのとおりで、しばらくして、鬼が彼女をつないでいた綱を引くと、池に沈んだかのように見えた女はずるずると引きずり上げられた。すると、身体は傷ひとつ無くなり、女は手をついて立ち上がり、思っていたよりもずっとしっかりとした足取りで鬼の元に歩み寄った。
「ここが地獄だって納得できた?」
 恐ろしい光景に魅入っていた私の背後にじっと立って待っていた鬼が、ぴんと張り詰めたソプラノの声で、優しく耳元で囁いた。それから、ひゅうううんと、籐鞭(ケイン)を振った。それは、私が、現世で使っていた一番酷い道具だった。それが、人の身体にどんなダメージを与えるか、私が一番良く知っていた。
「やめてくれ。それだけはやめてくれ」
「おやおや、どうしたの。立場が逆転しただけで、情けないこと。この鞭で、たっぷりお尻を叩いてあげるから」
 銀色の鬼は嬉しそうにひゅんひゅんと鞭を鳴らした。そう、私も、よくそうしたものだった。うつ伏せになる女の子達の後ろで、わざと鞭を鳴らしてみせた。それが好きな子にとってはどきどきとした胸の高鳴りを呼び、嫌いな子にとっては怖ろしさに震えあがるように。
 しかし、いくら現世でもやっていた行為とはいえ、私は、叩く側の人間で叩かれる立場になるなんて、まったく想像したことが無かったのだ。

「待て待て待て、待ってくれ。いきなり籐鞭で叩くなんて酷いだろう。お尻を叩くのにも手順ってものがあるだろう?まず、手で赤くなるまで叩いて充分温めてから道具を使うんだ。それも、あんまり痛くないものからだんだんにレベルをあげていって、籐鞭のようにダメージが大きいものは一番最後に使うものだぞ」
「まったくもう。その順番こそが、教育的指導とやらをお互いが楽しむための最適な手順になっているってことに気が付いてないの?」
 ビシイイイイイイイ!!
 情けないことに私は上ずった悲鳴をあげてしまった。初めてのケインは、私の無傷の尻にくっきりと赤黒い痣を浮かび上がらせているに違いない。鬼は容赦なくビシビシと強い打撃を繰り出してくる。想像以上の痛さに私は飛び上がり、みっともなく足を跳ね上げては、尻をふった。あっという間に傷だらけになったであろう尻は、ずきずきと脈打っている。
「すまない。ある程度叩いたら、休んで冷やしてくれないか。こんなことしていたら酷い痣になって、妻にばれてしまう」
「まあ、何甘いこと言っているの。でも、喜びなさい。もう、奥様にばれることもないのよ」
「なんてことだ。だが、本当にそんなに酷く叩き続けられたら、死んでしまう」
「あなた、さっき、女が池に放り込まれるのを見ていたでしょ?あなた達は、もう、これ以上無く死んでいるのだから、心配はいらないわ。それに、肉が削げて、骨が見えるまで容赦なく叩いてあげるから、そうしたら、あまりの痛みにそんな細かいこと気にならなくなるわ」
 私は、涙が溢れてくるのを感じた。痛みのために?それとも、私は悲しんでいるのだろうか。妻ともう会えないこともショックだったし、このまま、ずっと永遠にこの苦しみを味あわないといけないのが分かってきて、それもショックだった。身体がぼろぼろになったら、池の中で再生し、また、最初からやり直さないといけないなんて。絶望に、身体がねじ切られるような痛みが追い打ちをかけ、足がもつれる。やがて姿勢が崩れて、私の身体は、ぐったりとボロ布のようにぶら下がるだけになってしまった。
「まってくれ、打つのをやめてくれ。姿勢が崩れたら、元の姿勢に戻るまで、打つのを止めて待つというルールを知らないのか」
「なにふざけたこと言っているの。そもそも、姿勢を崩さないで足を踏ん張って持ちこたえるってのが、打たれる時の誇りなんじゃないの?」
 私たちは叩かれたりしないんだ。叩かれるのが好きなのは反対側の嗜好の人間だ。でも、鬼が言うことも最もなのだった。成長したら、母の膝に乗せられて手で叩かれるような恥ずかしい真似をせず、ちゃんと自立してお仕置きが終わるまで姿勢を崩さないのが、お仕置きを受ける最も大事な子どものプライドでもあった。
「それは分かっている。だけど、一度叩くのを止めてくれないと姿勢を元に戻せないんだ。それに、もう少し綱を緩めてくれ。暴れたので尻以外の場所も傷だらけになってしまった。ちゃんと、屈んで逃げずに受けるから」
 本当は受けたくなどなかった。どう考えても、私がこんな目にあっていることに納得ができなかった。ただ、お互いにそれが好きだったから、私たちは同意を得て楽しんでいたにすぎなかったのに。
「とりあえず、今はこのまま続けましょう。どうせ、動けなくなるまであと、二、三日のことだし」
「待ってくれ。待ってくれ。そもそも、お仕置きは、罰なんだ。この地獄だって、悪いことをしたからこんなに酷く叩かれているのだろう?だったら、尚更、私がちゃんと罰を受けられるように、立ち上がるまで待ってくれないか」
「うーん、ほんとにこれ罰なのかなぁ。でも、いいわ。立ち上がって姿勢を正して。腕の縄もちょっと緩めてあげるわ。その代り、足をその柱の両側に繋がないとね。そうすれば、鞭をうけるのにちょうどいい姿勢になれるでしょ?」
 くそ。私のプライドにかけて、ここは、耐え抜こう。私は自分自身を励ました。だが、その心の奥底で、これが永遠に続くのかと思うと身体に力が入らないほど絶望を感じた。お仕置きだったら、反省し、謝罪し、当然のように許されて、最後は優しく抱きしめられて頭を撫でられる。うまくすれば、いい気分になって性行為に及ぶことだって可能なのだ。なんてことだ。なんてことだろう。
 ただ、ちょっとばかり女性を痛めつけたり、泣かせたり、嫌がることを無理強いしたり、お尻が腫れ上がって座れないほどに傷つけたり、恥ずかしがるのを分かっていて裸にして辱めたりしたばっかりに、こんなことになってしまった。ついつい、痛くて泣いているのを無理やり押さえつけてやっちゃったりしたこともあったけど、それも、全部、全部、全部、女性たちが明日正しく行きていくために手伝いのためだったのに。だから、みんなありがとうって言ってくれた。お兄ちゃんって言って、懐いてくれたじゃないか。
 全然変態とかじゃなかったのになぁ。ああ、痛みのために気が遠くなってきた。きっと、そろそろ、あの池に放り込まれるのだ。
 そういえば、私は、泳げないんだった。まいったな。どうしたもんだか。やがて、苦しみは恐ろしく強く、息がつけぬほどになり、気が遠くなってきた。それは救いなどではなく、新たな苦しみの始まりだと言うのに。
 銀色の鬼がにっこり笑った。私はそれを慈母の微笑みだと思い込もうとした。気がつけば、私はきっと母の膝の上にいるはずだ。そうじゃないと「スパンキング」は成り立たないはずじゃないか。そうして、私はキラキラと光る渦の中に飲み込まれた。




 
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Category: 物語
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    2020

06.13

灯台の灯り




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 ネットの知り合いは、返事が来なくなったら終わりです。絶対に知り合う機会が無かったはずの人。出かけられずおしゃべり不足の私の相手を飽きずにやってくれた人。いつか悩み事を打ち明けようと思っていた人。15年前に消えた人と同じ故郷を持っていた人。何も変わったことは無かったのに。いつものように、会話をしていたのに。それでも、別れはやってくる。

 だから、いつも、ちょっと怖くて、ちょっと疑ってしまう。大事になればなるほど、凹んでしまう。失うのが怖くていらだってしまう。

 あの人は今頃どうしているのでしょうか。わたしは、相変わらず、灯台の灯りを探して波間を漂っています。


Category: リアルライフ
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    2020

06.08

緩やかに広げます



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Category: 大人のおもちゃ
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